もう二度と昇らない太陽を探す向日葵
1.裸足の大学生



「あっつい、あっつい」

 前髪に隠れている額から大粒の雫が滴る。その雫は、頬あたりで私の手にするハンカチによって拭い取られた。お気に入りの向日葵柄のハンカチは、汗を拭ったほんの一部、向日葵の花びらの部分だけがじんわりと濃い黄色になった。

 2016年8月5日。

 今日の最高気温は34度だと、洗濯物を干しながら天気予報を見ていたお母さんが言っていた。春が過ぎ、梅雨が終わり、ついに本格的に始まった夏。ここ数日ずっと続いている夏らしい快晴の空。そして、ジリジリと私達を照らしつける太陽。私は、これが意外と嫌いじゃなかった。

 待ちに待った夏休みも始まり、私は週に二日程度、入部している美術部の部員として参加するコンクールの絵を描きに学校へ来ていた。まさに、今もその帰り。私は眩しい陽射しを浴びながら、いつもと同じ家路を歩いている。

 小さな川沿いの小道を抜けると、大通りに出た。比較的栄えた、駅前に続く大きな道。歩き続けていると、私は何かに躓き転びそうになってしまった。


「うわ、危ない危ない」

 私は、何とか転ばずに済んだことへの安心から安堵の息を漏らした。ゆっくり足元に目をやると、私が履いている茶色のローファーと、その真ん前にある一冊の本が目に入った。

 茶色いブックカバーのかけられた文芸書サイズの本。私は、それを持ち上げると軽く砂埃を払った。本を両手で抱えた私は、まずはじめに辺りを見渡した。

< 2 / 125 >

この作品をシェア

pagetop