もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

「ごめんなさい。お兄さん、本当にごめんなさ……」

「夏帆、顔を上げて」

 罪悪感と後悔とでこみ上げてきた涙。それを必死にこらえていると、いつもと変わらない優しい声が降った。

 ゆっくりと顔を上げる。すると、お兄さんは「読んだ?」と私に問いかけた。そのお兄さんの問いかけに、私は黙って一度だけ頷いた。

「そっか。最後まで?」

「まだ、最後までは……」

 次は、ゆっくり首を横に振った。すると、お兄さんは私にあの本を手渡してきた。

「え?」

「読んで、全部。読んでもらった上で、夏帆に全てのことを話したい」


 ───ドクン。

 心臓が、大きく脈を打った。真っ直ぐなお兄さんの瞳が、この本に書かれていることが事実なんだと言っている。なんとなく、そんな気がした。

 いや、〝気がした〟じゃない。間違いなくそうだと思う。全てのことを話すと、お兄さんはそう言ってくれた。この本の先を読んで欲しいと言っている時点で、この本の内容は私とお兄さんの未来なんだと言っているようなものではないか。

 ああ、首を横に振って否定してくれたならどれだけ安心できただろう。どれだけ、私は救われただろう。

「……分かった」

 私は、お兄さんから受け取った本をきつく両腕で抱きしめた。

 夢なんかじゃない。とても美しくて残酷なものが、私の未来にはある。そう思うと、私の胸の鼓動は激しく脈を打って止まらなかった。

「ねえ、お兄さん。読み終わるまで、ちゃんと待っててくれるよね? 急に消えちゃったりしないよね?」

 突然、怖くなってお兄さんに問いかけた。私が、この本を手にお兄さんのもとから離れる。そして、全ての未来を知ったあと、ここにお兄さんはいるのだろうか。なんて、そんなことを考えてしまったのだ。

 だけど、そんな私の頭に手のひらを置いてお兄さんは優しく笑った。


「大丈夫。もう、絶対に夏帆を置いて消えたりなんかしない。夏帆が来るまで、ここで待ってるから」


 大丈夫、大丈夫、と優しくお兄さんが私の髪を撫でた。

 お兄さんの胸に顔を埋めた私は、そのまましばらくお兄さんの胸の鼓動を探していた────。




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