この冒険、なんやかんやでハ-ドモ-ド過ぎません?
殺意~フェノン編~〔第3話〕


森を抜けると、そこは廃墟と化した太古の都市だった。
かつてはあったであろう活気は遥か昔に時の風化へと消え失せて苔むし、朽ち果てた無人の街は寂しげな風だけの通り道になっていた。

『そんじゃ、ここいらで飯にするか』

数メートル先を歩いていたスズハゼは突然立ち止まると、建物の陰に隠れている私の方へと振り返り声を投げた。

『き、気づいてたんだ…』

私が姿を見せると、スズハゼはニカッっと笑って言った。

『隠れていても聞こえるからな~。
腹の鳴る音が』

『鳴らしてなんかない!』

でも、お腹が空いたのは事実だ…。

結局、スズハゼの案で近くに見つけた石畳みの広場で休憩することにした。


『何で、隠れながら後ろからついて来るんだ?
近くを歩けば良いだろに』

干し肉を火で炙っているスズハゼは私へと訊いてきた。
煙りに混じり芳ばしい香りが口内の唾液を増やす。

『別について来てない…。
ただ、方向が同じだけ…』

私の返答にスズハゼは何も言わず干し肉を差し出して微笑んだ。
どこかお兄ちゃんを思い出させる優しい瞳…。
きっと、こんな稚拙な嘘なんか簡単に見抜かれてるんだろうな…。

だけど、私はもう人間は信用しないと決めたんだ。
私にはお兄ちゃんだけしか居ないから…。

『まあ、お前の好きにしろな。
でも、腹がへったらいつでも言えよ?』

私は自分の顔を隠すように干し肉に大袈裟にかぶりついた。
多分、凄く安心している表情をしてると思うから…。


『スズハゼ殿!!』

突然、力強い女の声が背後から飛んできて、私は飛び上がる程に驚いた。
見ると、そこには一人の女が厳しい目つきで立っていた。

『おー、ソシエじゃねーか。
何してんだお前』

スズハゼが名を呼ぶその女はスズハゼと同じ朱色のコートをはおっており、一目でこの二人が仲間だと理解できた。

『昨日、カイリラが魔王軍より攻撃を受けているとの報せが入った!
よって直ちに我々、魔王討伐科の講師が救援に向かうことになったのだ!
カイリラには多くの卒業生たちも居る、急ぐぞ!!』

ソシエが勢い良くそう告げるも、スズハゼは呑気に干し肉を炙っている。

カイリラ…?魔王軍の攻撃…?よく分からないけど、もしかしたらお兄ちゃんはソコに居るのかもしれない…。


『おい!聞いておるのかスズハゼ殿!!
急がねばカイリラは……!』

『先ずは飯だ飯。
馬鹿ストレートなお前のことだから、取るもの取らずにバルデから走って来たんだろ?
ほらよ、食え。な?ソシエ』

厳しい剣幕で詰め寄るソシエの頬に、スズハゼが干し肉をグィッと押しつける。

 『よ、よせ!脂で顔がヌルヌルするであろう!』

悲鳴混じりの声を上げ、スズハゼの手から干し肉をひったくるソシエは恥ずかしそうに視線をそらした。

『つーか、カイリラにはあのクソジジイが居るんだ。
俺らが着く頃には全部終わってんだろ』

『確かにカイリラには❲ボルガノート❳様が滞在しておられるが、魔王軍の勢力が不明なうちは安心できぬ。
それと、何度も言うが大司祭様に対してクソジジイは無礼であろう。
あの御方は我々の師なのだ、口を慎め』

『じゃあ俺もお前の先輩なんだから、後輩らしくいっぺん乳を揉ませろ…ッグホォ!!』

ソシエは自分の胸へと伸びてきたスズハゼの手を払い退けるなり、腹に膝蹴りをめり込ませた。

『スズハゼ殿はもう少し先輩らしく努めるべきだ!』


そんな二人の様子を見ながら私は奥歯を噛みしめた。
鼻が利く私は、ソシエから漂ってくるのが発情した雌が出す特有の匂いだと知っている。
間違いなく、この女はスズハゼに好意を抱いている。

何故だろう、それが許せなかった…。

この女…
コロシテヤル…


『おっと、そういえば紹介がまだだったな。
こいつはフェノン。森で迷子になってたとこを保護したんだ』

スズハゼは私の手首を掴んでいた。
気がつくと、私は無意識のうちにソシエの首へと手を伸ばそうとしていたのだ。

『そうか…。
何故、魔物を連れてるのか訊こうと思っていたところだ』

ソシエはそう言って鋭い眼光を私へと向けた。
どうやら、スズハゼといいこの朱色のコートを着ている講師と呼ばれる人間たちは、私の頭のツノを見なくても私が魔物だと悟れるようだ。

『そんじゃ、そろそろ出発すっか』

スズハゼが私から手を放して火を消しにかかったのを見計らったかのように、ソシエは私の耳許に唇を近づけると、そっと囁いた。


『魔物よ、次また私に殺気を向けたら…即座に殺す』




               ※次巻に続く
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