強引専務の甘い手ほどき
「行くぞ。西島。」と専務は私の前をどんどん歩く。
私は荷物を慌てて取りに行って走ってエレベーターの前で追いついた。
「明日は何曜日だ?」と聞くので
「土曜日です。」と言うと、
「おまえは休みだな。じゃ、飲んでもいいな。」と私の瞳を覗く。
「は、はい。あまり、お酒は強くありませんけど…。」と言うと、
「酔っぱらうなよ。面倒だ。」と言いながらエレベーターに乗り込む。
「き、気をつけます。」と言いながら専務の後ろに立った。

「横に来いよ。話しにくい。」と私を振り返って、専務はくすんと笑い、
「俺は話しかけにくいか?」と私を見るので、
「い、いつも、忙しそうに見えます。」と専務の隣に立ち、
エレベーターの窓から見える港の風景を眺める。
「そうか。俺は夢中になると、周りが見えなくなる。
気にせず、話しかけてくれ。」と少し溜息をついた。
「…はい。そうします。」と少し専務の顔を見上げてから再び窓に向き直る。

ここはみなとみらい駅から程近いオフィスビルの35階だ。
本社は32階から35階の最上階に入っている。
朝の出勤時は混雑していて窓の側には立てないけど、
空いたエレベーターに乗った時は窓際に立って眺めを楽しめる。
「…何を見ている?」と話しかけれ、
「か、観覧車です。ライトアップされて綺麗だなって思って。」
と少し笑うと、
「ここからの景色なんて、最近見てなかったな。」と窓の外を見て、
「本社の納涼祭は花火大会の時にクルージングだ。
海から眺める観覧車も綺麗だぞ。」と柔らかい声を出し、私の瞳を覗き込む。
「わ、私も参加できるんですね。…楽しみです。」と言うと、
「俺も今年は都合をつけよう。」と少し微笑みかけてくる。

真っ直ぐ見つめられると
ちょっとドキッとする。
イケメンは困る。

普通の会話なのに鼓動が大きくなってしまう。

私は視線をそらし、音を立ててとまったエレベーターを急いで降りた。





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