乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)

 最後に抱かれた時、雅輝が一瞬躊躇して抱いた理由が、雅輝が帰った後にわかった。

 避妊してないことに。

 いつも、必ず避妊はしてくれていた。でも、今回の雅輝はそんな余裕も見られなかった。

 でも、杏樹はこの時思ってしまったのだ。

 もしこれで妊娠したら、二人を繋いだ確かな証が、自分の手元に残り、幸せな思い出の中で生きていけると。

「ね、ずるいよね?結婚してしまう相手のこと、いつまでも思っちゃってね……。」

 杏樹の言葉に、さらに静まり返る。そうしていると、廊下を走るドタドタとした音がしたと思うと、杏樹の病室が開いたかと思うと、風のように杏樹の側まで行き、捲し立てるように外国語を話すダンディーな男性が入ってきて、みんなが目を丸くする。

『杏樹!大丈夫か?頭か?腕か?足?お腹か?どこが悪いだ?』

『ちょっと、落ち着いてよ?』

『落ち着いてられるか!?何で倒れたんだ?日本に着いて白城さんと合ってたら電話がきて、それより、なんの病気なんだ!?』

 杏樹の手を握りしめ、みんなが二人の外国語の会話を、字幕なしのテレビを見るように眺めていると、後から追ってきたであろう人物が顔をだした。

「クリス、病院は静かにせんと。はぁ、年寄りをこんなに走らせよって!」

 息を整えながら汗だくの白愁先生の姿があった。悠一は軽く会釈し、"ありがとうございます。"とお礼を言うが、絵梨も渉も初めて合う、気難しくて有名な白愁先生に、緊張し、一言も発せない。

「はっすみません!白城さん。娘のことを考えて白城さんのこと、忘れてました!」

 日本語でぺこりと謝るダンディーな男性の腕を掴み、杏樹が何かを彼に言う。そしたら急に男性が杏樹を抱き締めたのだ。

「ちょっと。」

「杏樹、もう隠さなくていいんだ。堂々と娘って公表できるんだよ!」

「えっ?」

「日本にくる前にすべて片付けたよ。警察からも弁護士からもOK貰ったし!」

 周りの人間は今の日本語の会話から、彼が杏樹の父であること、今まで人に関係が言えなかったことを瞬時に理解した。

「あの……。お父様ですね。主治医の」

と、医師が言い終わるより先に、杏樹を抱き締める手を離して、医師の肩を揺らしながら

「内科医ですか?外科医ですか?それとも心臓外科医ですか?」

「えっと…私は、産婦人科医ですが…。」

 主治医がその迫力に押されながら答えると、杏樹に視線をやり、すごい間抜けな顔をして、"えっ?"と呟いた。
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