乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
二人がそんな会話をしているとは思わない杏樹は、自分の部屋に飾ってある大切な絵を見つめていた。引っ越しの時に大事に抱えていた、あれだ。
「杏樹。」
ドアの外から雅輝が呼ぶ声が聞こえ、戸をあけらると、ティーセットを持った雅輝が立っていた。
「良かったら、一緒にどう?」
「飲みます!どうぞ。」
杏樹が部屋に案内すると、ちょっと照れた顔をしながら目線を外された。
「おじゃまする前に、パーカー着てくれると嬉いんだけどな。」
ノースリーブに短パンの部屋着を着ていた杏樹は、いそいそと近くにあるパーカーに袖を通した。
雅輝が部屋に入ると微かなハチミツの匂いが鼻を霞める。小さな机にティーセットをおき、二人でベットに背をあてる。
雅輝は、カップにコポコポと飲み物をつぐ。
「あっ、ホットミルク?」
「そう、ちょっとハチミツを入れてみたよ。嫌なことがあると眠れないだろ?」
「……ありがとう。」
そう言いながらカップを渡してくれる。
「杏樹、俺は味方だよ。だから、何かあったらちゃんと話して?アパートのこともあの掲示板のやつも、ちゃんと犯人見つけるから。」
真剣な眼差しで言われ、杏樹は、この人にそんなに頼ってしまっていいのだろうかと悩み、曖昧に頷いた。
そんなことには触れず、雅輝は、部屋に飾ってある絵に目を向けた。
「あの絵、いつ見ても綺麗な絵だな。」
「ふふふ。素敵でしょ?私の宝もの。」
二人の目線先には、一つの絵画が。
絵の真ん中には羽を纏った天使が描かれ、青空から夕焼けに向かって光を浴びて羽ばたく姿が描かれているもので、途中途中がキラキラしたものが混ざっている。色彩も鮮やかで艶やかな夕焼け色に、澄みきった爽やかな青空色。電気の光を浴びると色が変化するように見える。
「本当に綺麗な絵だ。」
再度呟いた雅輝の言葉に、ふふっと笑いながら杏樹は、絵を見つめる雅輝を見ていた。
杏樹の部屋で、二人は何の会話もなく、ただ絵を見つめ、夜が吹けていくのだった。