乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
「……彼が、株を私に譲ってもいいと言ってるんですよ?あやめのために、使ってくれと先日話しました。」

「えっ……。」

 連条社長は驚いたようあやめの父を見る。

(株?……あのフランスの会社の株?他の株は買い占めたはず…。えっどういうこと?)

 あやめの不安そうな顔に気がつきながらも話を続ける。

「私が所有したら大変なことになりますよね?あなたと七瀬さんの株を上回り……そうなったら、ラポールは私の会社になってしまう。」

「なっ!?」

「私はビジネスでは優しくありません。そうなれば、今抱えている社員は路頭に迷いますよね?」

「……何がお望みですか?結城さん。」

 青ざめた顔をする連条社長に、意気揚々とあやめの父はいい放つ。

「そんなの簡単でしょう?あやめと副社長の結婚だ。そしたら、その株は副社長のものとし、会社もそのままだ。まっ、結局は初めの約束に戻るわけですけど。」

 あやめの父は、クククッと不気味に笑い、近くの葉巻に火をつけ、"返事は3日待ちますよ。"と言い、連条社長を帰したのだった。

「お父様、どういうこと?」

 連条社長が帰ったのを確認し、いてもたっても居られなくなりあやめは、口を開いた。

「昔ばなしだよ。まっ、あやめも知っておかないとな。」

 そういいながら、父はあやめに全貌をはなした。

 ラポールを開設するに当たり、応援してくれたクリスと言う人物について。

 会社を起こす時、保証人となってくれたのがクリスと言う画家だった。まだ、売れない画家であったが、日本人の有名な職人ー白愁ーに目をつけられたことで、密かに高値でクリスの絵は売買され始め、どこかで知り合った連条社長の心意気を気に入り、知り合って間もないにも関わらずラポールの開設の手助けをしたのだ。

 その時に、株をクリスに渡し、自分には娘がいるから年頃になったら、結婚させようと約束したらしい。と。

「えっでも、私の父は画家ではありませんよ?」

「あぁそうだ。たぶん、娘とは立花杏樹のことだ。」

 画家の話しにも驚いたが、娘をあの女と言いきった父にも驚かされる。

「先生が言ってただろ?振り袖の話。」

「えぇ……。」

「昔な、そのクリスの娘に振り袖を作ってやるから、振り袖は一生に一度しか作らんと聞いたことがある。」

「なら、連条社長に嘘をついたって分かるんじゃ…。」

「それが、立花杏樹は父の話は一切しないし所在もわからない。そして、クリスにも社長は連絡が取れない……。3日の猶予はやった。3日で連絡が取れるものか。……だがら、婚約までやりきればいい。」

 そう言いながら、あやめの目を力強く見る。

 その目は、"余計なことは言うな。""従えばいい。"と語っているように思え、あやめは、この時ばかりは本当に、父が怖いと思ってしまった。

 
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