乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
こういう時に限って仕事は待ってはくれず、山程ある社長の仕事をこなさなければならない。
悠一もサポートしてくれるが、いつもなら話しながら進む作業も、今日は全く進まず、二人の間に会話すらない。
ちらりとウェディング企画室を覗きにいった悠一は、企画室の雰囲気の悪さにため息をついてしまった。会社全体が疑心暗鬼した雰囲気で、悠一もやるせなくなる。
杏樹はただ淡々と仕事をこなしている様子で、周りから言われる誹謗中傷には目もくれず、周りの嫌がらせが悪化している様子が見えるが、なずなは見て見ぬ振りをしているようだ。
杏樹は否定しようとしていたように思えるが、あの考え込む様子からみんなが、言い訳を考えているように受け取ったのは、悠一も分かった。
雅輝の拒絶で、会社が一瞬にして、雅輝と杏樹の好意的なムードから変わったのが分かった。
社長室の電話がなり、悠一がとる。相手は結城あやめの父だ。悠一は、咄嗟にスピーカーモードにし、雅輝に代わる。
「はい、連条です。」
「ああ、大変ですね。副社長。」
ニヤニヤして不気味に笑っていると、電話越しでも分かる。父の心労はこの男だと思うと、苛立ちが押さえられない。
「今、忙しいんですが。ご用はなんでしょうか?」
「社長が大変だろうが、期日を変える気がないことを伝えようと思って。」
一発触発の二人の会話を悠一は、ただ聴くことに徹した。
「先ほど、娘さんから聞きました。」
「あぁ、そうだったな。それはそうと、会社は別のことで大騒ぎとか?」
「………。」
「あやめと結婚する動機が出来たじゃないか。あの娘は君、一人じゃ満足しないんだよ。あやめなら君に尽くすよ。心も体も。」
「………。」
「いっとくが、会社を渡したくないからと、形だけの結婚をするのはよしてくれよ?半年後に、跡継ぎの報告がなければ、その時は、また、考えることにするから。この意味分かるよね?」
雅輝は爪が皮膚に食い込むくらい、何も言わず手を握りしめ、悠一は、悔しい顔をしていた。
「じゃ、3日後に。」
一方的に電話は切れ、スピーカーにした電話からは、無機質な電子音が、いつまでも流れていた。
3日後には、決断しないといけない。会社か自分か。
会社のために、自分の幸せをあきらめるのか。
自分の幸せのために、会社やみんなを犠牲にするのか。
いつもなら冷静に判断出来るはずなのに、それが出来ないのは、杏樹の動画を見て、信じきれない自分がいるからだ。
連条社長が目を覚まさない中で、雅輝はその判断を求められることになったのだ。