俺様御曹司による地味子の正しい口説き方

「さ、行くか。まだ終わってねぇんだろ?待ってるから。頼むから、帰り送らせて」

手を引っ張って、立たせてくれた。
腰を屈めて私を覗き込み、掠めとるような軽いキスをして、視線を合わせる。

今更ながら顔が赤く熱くなっているのが分かる。

「…………はい。さっきはごめんなさい。ありがとうございます、お願いします」

襟元を直し、なんとか平常心を保つよう深く息を吸う。
ボタンを止めて見えなくなったはずの赤い印を、思い出すだけで胸が高鳴る。

今日一日だけでいろんな事がありすぎた。

突然騒がしくなった私の周りの変化に付いていけず、渦に巻き込まれて飲み込まれてしまいそうだ。

どうかこのまま平穏な日常がおくれますように。
そう願っているのに、否応なしに台風のような日々が始まって、これはただの序章だったことを私は気付きもしなかった。
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