御曹司といきなり同居!?


今まで周りにはいなかった雰囲気を持つだけに、つい圧倒されてぼんやりと眺めていると「森野さん?」ともう一度聞かれ、ハッとする。

それから、さっき電話で聞いた名前を記憶の中から引っ張り出した。
この人の名前は……。

「湊さん、ですか?」

確か、そう言っていたはずだ。

〝湊〟って名字なんだろうか、と少しの引っ掛かりを感じたから、一度聞いただけでも覚えている。その人はにこりと微笑んで頷いた。

「そう。ここ、迷わずにこられた?」

正直に「少しだけ迷いました」と答えた私に、湊さんが申し訳なさそうに眉を下げる。

オーラはあるけれど、雰囲気自体はやわらかい。不思議な人だと思った。

「ああ、そうなんだ。迷わせてごめん」
「いえ。私のほうこそ、わざわざ出てきていただいてしまってすみません」

ふと、湊さんのうしろに、スーツ姿の男の人が立っていることに気付く。

170センチ半ばの身長で、歳は、二十代後半くらいに見える。
湊さんとは違い、冷たい雰囲気がこちらまで伝わってくる。

湊さんと少し距離を取りながらも立ち止まっているということは、湊さんと一緒にきたのかもしれない。

黒い短髪の男の人は探るようにじっと私を見ていて、仕事の邪魔をしちゃったのかもしれないと申し訳なく思った。

私だって有給をとっていなければ、職場である銀行で、一日の締めの作業をしているころだ。伝票の枚数に、税金の金額、そして現金の精査作業。

ひとつでも合わなければたとえ日をまたいでも帰れないところだけど……今日は無事合っただろうか。

仕事のことを考えていると、「普段はこのへん来たりしない?」と聞かれたから、「いつもは電車で通過するだけなので」と答える。



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