御曹司といきなり同居!?


「それに、スマホで地図を調べられなかったので。普段、そこまでスマホに依存しているつもりはなかったんですけど……結構頼ってたんだなって実感しました」

大切なモノはなくなってから気づく、みたいな言葉は本当だったらしい。
そう説明すると、ハハッと明るく笑われる。

「確かにそうかもね。でも、森野さんは自分の電話番号覚えてただけいいと思うよ。俺なんか未だに曖昧だし。
……ああ、で、これね。森野さんの落としたスマホと、一緒に落ちてたポーチ」

湊さんが差し出したのは、見覚えのある私のスマホとポーチで、たぶん二時間ほど前に落としたものだった。

それに気付いたのが一時間前で、苦労して探し出した公衆電話から自分のスマホに電話をかけたのが五十分前。

その電話に出たのが湊さんだったというわけだ。

二時間前。駅を目の前にしても、なんだか疲れてしまって人混みの中に入っていく気持ちになれず、駅前のベンチで休憩した。
そのときに置き忘れてしまったらしかった。

そして、拾ってくれていた湊さんに場所を指定してもらい、ここで待ち合わせした……というのが今までの流れだった。

「あ、これ……一応」

運転免許証を差し出すと、湊さんが「へー。免許持ってるんだ」と驚いた声を出すから、「ペーパードライバーです」と答える。

就職に有利だからと一応取ってはみたけれど、電車通勤だし車も持っていないしで数年運転していない。

落としたポーチの中身は、保険証や頭痛止めなどの常備薬に絆創膏だ。

薬なんかは市販薬だしどうでもいいにしても、拾った保険証を、本人とも確認しないでポンと渡すのは逆の立場だったら怖い。

そう思い、免許証を取り出し手に取ったまま見せると、湊さんはサッと目で確認したあと「たしかに。じゃあこれ」とスマホとポーチを渡してくれた。


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