御曹司といきなり同居!?


いくら日本の治安がいいとはいえ、今はいろいろ物騒だ。

もしもなくしたりしてしまっていたら、手続きだって面倒だし、スマホにいたっては新しいものを買うのにお金だってかかってしまう。

こうして落としたものが手元に無事に戻ってきたことにホッと胸を撫で下ろしてから、湊さんを見上げた。
この人がいい人でよかった。

「ありがとうございました。どうしようかと思ってたので……本当に助かりました」

頭を下げると、湊さんは「いいよ。たいしたことしてないから」と笑う。

「あの、よければ連絡先を教えてもらえないでしょうか」

できればお礼がしたい。
そう思い言うと、湊さんはそんな私の気持ちに気付いたようで、「いいって」とまた笑った。

「でも、拾っていただいてなにもしないなんて、私の気持ち的にも納得いきませんから」

ハッキリと言い見上げた私に、湊さんはふっと口元を緩める。そして、わずかに腰を折って私に顔を近づけた。

「もしかして、誘ってくれてる?」

ただ、お礼をしたいって言っていただけなのに。
どこをどうとったらナンパだなんて誤解できるんだろうと呆れていると、視線の先で湊さんがふはっと笑う。

「冗談だって。そんな顔しないでよ」
「……すみません。誘ってるつもりなんて少しもなかったのでつい」

ぷっと吹き出したのは、後ろに立っている男の人だ。

それを湊さんが振り返り「藤、黙ってろ」と機嫌悪そうな声で注意すると、すぐに「笑っただけでなにも言ってませんけど」と藤さんが返す。

藤さんだけ敬語なところを見ると、後輩ってことだろうか。

じっと見ていると、藤さんは私を見て笑みを浮かべた。にやりって見下す感じの。
……なんとなく、嫌な感じだ。

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