金木犀のエチュード──あなたしか見えない

2話/No importa lo que Nase

大学の音楽科棟、屋上の風見鶏の側に腰を下ろすと、音楽室からの演奏が聞こえてきた。

換気用の通気孔が近くにあるせいだろうと志津子は言っていた。

エントランスホールで別れた詩月くんは理久と呼んでいた人に背負われ、廊下を右に回りエレベーターのある方へ消えた。

エントランスホールの2階から大学へと繋がる渡り廊下を抜けて、大学の音楽科棟に向かったのだろうと思う。

わたしは階段で2階まで上がり、渡り廊下を歩いて大学の音楽科棟へ向かい、そこから屋上を目指した。

詩月くんはたぶん昨日の雨で体調を崩し、風邪を引いたのかもしれない。

火照っていた手の熱さや声の調子、手すりに掴まり休みながら歩く様子から、熱がかなり高いんだろうと思う。

あんな状態で本当に演奏などできるんだろうかと、心配になる。

課題曲は自由曲も劣らないくらいに難曲だったと思うと、不安と興奮で動悸が止まらない。

< 50 / 128 >

この作品をシェア

pagetop