金木犀のエチュード──あなたしか見えない
立ち上がり背伸びをし、屋上からの景色を眺めた。

「わあーっ、すごい眺め」

坂道に広がる住宅街、並木道、横浜の街並み、公園の緑、港そして海が一望できた。

屋上の下に目を移すと正門の像が、左に目を移すと裏門の像が見える。

「へぇ~、対になってたんだ」

学園には伝説がある──そんな話を誰かがしていた記憶がある。

もしかしたら、あの対の像に纏わる伝説かもしれないと思う。

通気孔の側に戻り、耳を澄ませているとピアノ演奏が聞こえてきた。

詩月くんの順番はまだだろうかと思いながら、じっと聴き続けた。

明らかに凡人の演奏が続く中、耳を惹きつけられる音色が聞こえてきたのは、耳を澄ませて1時間以上経った時だった。

「革命のエチュード」の演奏は激しく力強く、生命力に漲っていた。

指が最も吊りそうな部分でも、迫力ある演奏は変わりなく、それまでの演奏の中で群を抜いていた。
< 51 / 128 >

この作品をシェア

pagetop