金木犀のエチュード──あなたしか見えない
「すごい演奏」

思わず声が出た。

「緒方さんよ、さすが周桜くんと首席争いするだけあるわね」

志津子がいつの間にか、わたしの隣りにいた。

「声をかけたのよ。あなた集中力していて」

「緒方さんの──」

わたしが言葉に詰まると、志津子は「これで驚いていたら周桜くんの演奏は聴けないわ」と声を弾ませた。

緒方さんは自由曲に「エオリアンハープ」を弾いた。

「革命のエチュード」の躍動感と迫力とは打って変わり、穏やかで優しい曲だった。

「彼、大丈夫かしら。さっき1階で会ったんだけど酷く具合いが悪そうだったけど、あんな様子で弾けるのか……」

志津子は前髪を掻き上げ、ツンと思い切り澄まし顔で笑った。

「周桜くんはね、ピアノコンクールではコンクール荒らしと呼ばれているほどの実力よ」
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