金木犀のエチュード──あなたしか見えない
詩月くんは駆けつけた主治医の診察を保健室で受け、暫く休んだ後、理久の車で帰ったと聞いた。

翌日のヴァイオリンの実技試験は、ピアノの実技の時のように通気孔からは演奏が聞こえず、どんな演奏をしたのかはわからなかった。

だが、その日の内に、課題曲の終盤。

詩月くんのヴァイオリンの弦が1本切れて、詩月くんは咄嗟に残った弦を駆使し、転調したうえピチカートも交え最後まで弾き切ったという噂が流れた。

内部受験から数日経っても、ピアノの実技試験、ヴァイオリンの実技試験も共に詩月くんの演奏が話題になり、学内のあちらこちらで様々な噂と憶測も含んで囁かれている。

「失敗すれば、身の程知らずと言われるほどの難曲を受験の実技に弾いただけでなく、まさか高熱をおして、弾き終えた直後に倒れるような状態で」と学生だけでなく、高校と大学の教授も感嘆し、驚いているみたいだ。



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