金木犀のエチュード──あなたしか見えない
岩舘さんは神妙な面持ちで、残念そうに話した。

「楽オケの会場予約の帰りに、事故で左手を……彼が怪我をする前の演奏は何度か聴いたことがある。リリィとのデュエットは特に素晴らしかった」

「山下公園の演奏は可哀相なくらい拙かったわ」

志津子が知っているでしょっと、わたしに目線を送る。

「彼は詩月くんの指を心配していました。詩月くんが街頭演奏を始めた頃を知っているみたいでした」

「詩月の周りには弾けない辛さを知っているヤツが2人もいるんだな」

岩舘さんはフウーっと長い溜め息をついた。

「周桜くんは白いネコを見つければ、その人に会えると思っているのかな?」

「あ──」

岩舘さんはわたしとほぼ同時に声を漏らした。

顔を見合わせた、わたしと岩舘さんに志津子は「教えてあげなくていいの」と、私たちを覗きこんだ。

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