零れた液体に名前はつけない
「…兄さん?」
でも、僕の中を流れる汚らわしい人間の血を全て排除し、彼女の血が僕の身体中を巡りそれが全身を駆け抜けるだなんて…
想像の出来ないことだ。
「…ミナちゃん…」
「ダメっすよ」
手を握り合っていた僕らの間に、突如男が割って入ってきた。
「…そんな、本能のままに啜れば飲み干してしまうのは目に見えてるっす。殺したいんすか?痛めつけたいんすか?大切なら傷つけずにすむ努力をするべきっす」
「…そこをどけてくれ」
「ダメっす。冷静になれないならダメっす。殺戮を繰り返し血の味を知っているあんたらはオレらの様に加減を知らない。まずはそれを学び傷つけず傷つかない方法をしってからっす」
「どけろ!」
「兄さん…」
彼女が震えている。
彼女の頬にまた、透明な液体が流れている。
今回は今までよりずっと多く、地面に零れ落ちるくらい流れている。
見たくないんだ、みなくてすむならなんだってするんだ。
「…泣いてる…」
少女が彼女の頭に触れた。
「…さ、触るな!穢れた手でミナミコの体に触れるな!」
「…泣かせた。かわいそう」
少女は彼女を抱きしめ、僕を睨んだから、頭の中で何かが弾け飛んだ。
駄目なんだ、僕以外の何かが彼女に触れてはいけない。
それを許してはいけない、それを傍観してはいけない。
それはダメなんだ。