うっせえよ!





「何が言いたいんですか?」



私の疑問を無視して、編集長はベラベラと純文学を続ける。



「その連載会議が3時間も経っている。3時間。そうねえ、ここから新幹線で名古屋までは行けるかしら。その間、駅員から六法全書を渡されて、『これが面白いかどうか読んでください!』と詰め寄られたとしたら……あなたはどう思うかしら? そして、3時間。新幹線の座席に座って、飲まず、食わず、トイレにも行かず180分、真面目にそれを読むことができるかしら?」



「もう! はっきり言ってください! 意味が分からないんですよ!」



私は思わず編集長の大きなデスクを両手でバンッと叩いた。それにも動じない編集長は、私をにらみつけるような目を向けた。



「……てめえの原稿がつまんねえって言ってんだよ。」



低く、ドスの効いた声が編集部に静かに、ベース音のように響いた。



カミツレの編集部には何度か入ったことはあるが、電話も鳴らない、誰も言葉を発しない、音を立てない、そんな光景を見たのは初めてだった。



周りにいる誰もが息を呑んだ。私も、誠司さんも。



「設定もクソッ! つまんない。キャラのセリフもクソッ! つまんない。おまけにそこから恋に発展する展開もクソッカス! つまんない。あなたの持ち味だったモノローグなんて、水溶き片栗粉。味無し、トロトロ。こんなもの連載した私は、時代が時代なら切腹ものね。」



そこまで酷かったなんて、正直思ってもみなかった。もちろん、誠司さんも同じだと思う。レンコンが丸々入るほど、口をあんぐり開けていた。



「でも、芸術ってやつは面倒でね。私のようにグレアム・グリーンの裏切りが好きな人もいれば、グレアム・グリーンなんてワンパターンでしょ? と言う人もいる。私は文学界の創造主じゃないの。現に、まことちゃん含め、あなたの短編を良いと言う人もいるの。『大木先生らしくない。でも、そこが斬新で、読者は引き込まれるんじゃないでしょうか?』ってね。ホント、私を批判する奴ら全員、地方に飛ばしてやろうかしら。」



編集長……そこまでせんでも……。



ほら、周りのチーフ陣、震えてるし。




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