Time after time たとえ何度忘れても ・・・
「分かりました。じゃあ、電話は出ないで、メールは・・・・諒・・さん、に、相談します。」
名前を呼ばれて、オレは、一瞬息をするのを忘れてしまった。
今の弥生には ”諒ちゃん” と親しげに呼ぶことはかなりのハードルなのだろう。
それを踏まえての、”諒さん” が、嬉しくて、なんだか可愛らしくて、心臓がちょっとだけ、跳ねたのだ。
「ああ、うん、それがいいと思う。」
ぎこちなくなってしまう返事。
本来、オレ達にこんな雰囲気はあり得ないはずなのに・・・
照れなのか、恥ずかしさなのか知らないが、妙なこそばゆさを感じてしまい、オレはそれを振り払おうと、立ち上がった。
「じゃ、オレ皿洗ってくるよ。弥生のも貸してくれる?」
「あ、後片付けは私がします。」
「いい、いい、弥生は色々疲れがたまってるだろうから、休んでて。」
一緒に腰を浮かせようとした弥生を制し、オレは手早く自分と弥生の食器とトレイを重ねた。
「・・・・それじゃあ、すみません、お願いします。」
弥生は素直に引き下がると、ぼんやり、庭の方を眺めるように座り直した。
だが、よほど気を張っていたのだろう、
後片付けを終えたオレが戻ってみると、開け放たれた窓の枠部分にもたれ掛かるようにして、弥生は眠ってしまっていた。
スウ・・・スウ・・・という規則正しい寝息に、自然と口元がゆるんだ。
俯いているせいでくせ毛が顔を隠しているのが惜しくて、オレはそおっと、横髪を耳に掛けてやった。
「・・・・・・弥生?・・・」
まるで吐息のように、小さなボリュームで呼んでみたけれど、弥生から返事はない。
「ここで寝たら風邪ひくだろ・・・」
仕方なく、部屋まで運んでやることにした。
腕を首と膝裏にまわし、持ち上げる。
オレが記憶している弥生よりも、少し軽くなっている気がした。
弥生を抱いたまま立ち上がると、部屋の明かりに照らされた寝顔がはっきりと見えて、
愛おしい、
その想いが、全身から溢れてきそうになる。
オレは、弥生への気持ちをありありと感じながらも、
今の弥生にぶつけるわけにはいかないと、ギュッと唇を噛み、それを堪えた。
そして弥生の部屋のベッドに運ぶまで、大切な人を腕の中で守ることの幸せに浸っていた。
――――――――――――弥生のことが、好きだ。
その気持ちは誰にも負けやしない。
例え、あの男が弥生とどういう関係なのだろうと。