君の声に溺れる



「そっか……なんだ、弟さんか」


 そうポツンと呟いて、笠原くんは自嘲的な笑みを浮かべた。


「笠原くん?」
「ううん、何でもない……。チョコ、ありがとう。すごく嬉しい」


 そう言って笠原くんがふわりと笑った。
 それはずっと待ち焦がれていたいつかの笑顔で、想像なんかよりもずっと素敵だと思った。


「何かあれだね。笠原くん喋るの苦手って言ってたけど、私とは結構喋ってくれるよね!」


 調子にのってそんなことを言ったら、笠原くんは急に黙り込んで、少しだけ顔をうつむかせた。
 それから、いつもの息を吸う気配がした。ゴクリと、息を飲む。
 私は、それが笠原くんが喋る時の合図なのだと、認識していた。


「相原さんは……」


 耳に残る笠原くんの声。
 無口な笠原くんの言葉は、一つ一つが、ちゃんと考えて発せられたものなんだと思う。だから、彼の声や言葉は、私の耳に残るんだろう。


「ちょっとだけ、喋りやすいから……」
「……っ」


 ああ、どうしよう。想像していたより、ずっと嬉しい。
 笠原くんの中で、私はちょっとだけ特別な存在なんだって思っても、いいのかな?


「好き……」
「えっ?」
「好きです、笠原くん」


 想いと言葉は、同時に溢れた。胸の奥が窒息しそうなくらい、ぎゅっと締めつけられる。


「本当は、そのチョコレートも笠原くんのために作ったの」
「………」


 目の前の笠原くんが、信じられないとでも言いたげな表情で私を見る。


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