君の声に溺れる
「ご、ごめんね、何か色々迷惑かけちゃって……」
そう言って顔を上げると、笠原くんが勢いよく首を横に振った。
「別に、迷惑、なんかじゃなかった……」
「そ、そか……」
今の言葉の意味が気になったけれど聞くタイミングを逃してしまった。
「それじゃ、俺帰るから」
「あ、えっと、ま、待って!!」
慌てて引き止めると、私は今日一日ずっと鞄の中に忍び込ませていたチョコレートの袋を取り出した。
せっかく昨日から夜更かしして作ったのだ。おかげで笠原くんにだらしない寝顔を見られるハメにはなってしまってけれど、せめて渡しておかないと昨日の私の努力が無駄になってしまう。
「これ……あの、バレンタインだからっ」
「………」
袋を持つ手が、震える。ドキンッドキンッと今にも飛んで行ってしまいそうなほど高鳴る心臓をどうにか抑えて、笠原くんの方に、手を伸ばした。
「………」
「………」
流れる沈黙にドクドクと心臓が嫌な音を立て始める。
「あ、あの!別に深い意味とかないからね!その、他にもあげる人がいたからそのついでっていうか、だから……」
断られるのが怖くて嘘をついた。
もしかしたら彼女がいるかもしれないとか、もしかしたら心に決めた人がいるかもしれないとか、そもそも私のことを好きじゃないかもしれないとか、バカみたいな想像をしては心がどんどん沈んでゆく。
「……そっか」
「……うん」
「他には、誰にあげるの」
「え……?」
「他にあげる人のついでなんでしょ、俺」
「あ、いや……」
そんなこと聞かれるとは思っていなかったせいで答えに詰まる。そもそもそんな人は私の周りにいないのだから当然だ。
「それは、その、弟……。そう、弟!」
「弟?」
「うん!今年中三なんだけどさ、姉ちゃんのチョコが恋しいって!」
ごめんよ弟。心の中で私は全力で土下座をした。