青春メトロノーム
分岐点は信号のない交差点のようで、判断が難しい。

「おかえり。今日は遅かったねえ」
「颯太の部活を見てたら、真っ暗になっていた」

玄関に入ると、シチューのいい匂いがして、足をブラブラさせて靴を放りながらリビングへ向かった。

「美味しそう」
「温めてあげるから着替えてきなさい」
「はーい」

いそいそと階段を上っていたが、一階から見えない位置になってからダッシュで部屋に向かう。

「ちょっとー。廊下が抜けるでしょ」

リビングから大声で注意されたけど、おかまいなしに私はクローゼットまで一目散に走った。
カバンをベットに放り投げると、中身がばさばさとばらまかれ、大切なノートがはらりと開いた。

それを横目でちらっと確認してから、私はクローゼットを開けた。
小さいときに遊んでいたおもちゃ、お父さんの冬物の服、着れなくなった子供服、綺麗に整頓された中、頂き物のタオルが入っていた段ボールに手を伸ばす。
段ボールをどけると、時が止まった時計がぽつんと置いていた。

アラームが鳴らなくなった時計だ。三人で一緒に買って、バラバラの種類の時計を買った。

小学生の時は重いともおもったことのないこの時計が、今は鉛の塊のように重く感じる。急に心臓がドッドッと高鳴って、怖くなった。

これを壊す。すると時間が振り子のように変わるとでもいうのか。
どんな方法なのかわからない。まるで魔法みたい。呪いを壊すみたいな、魔法みたいだ。
怖い。けれど、暁を返してほしい。

私がいない未来があった。颯太がいない未来があった。
暁がいない未来があった。

けれど、誰かひとりでも欠けてしまった世界なんて、ウソツキだ。

私は変えたい。私は二人と笑いあいたい。
< 162 / 201 >

この作品をシェア

pagetop