イジワル御曹司のギャップに参ってます!
市ヶ谷くんの顔が、私の肩口にぐっと埋まる。熱い吐息が首筋に広がる。

男性に抱きしめられた恐怖と、彼の温もり、その相反する二つが私を支配する。

私のことを、好きだなんて、きっとこれは市ヶ谷くんの優しさだ。
雨の中、道端に捨てられた子猫を、見捨てられないような感覚だ。

「……市ヶ谷、くん」私は声を絞り出す。「駄目だよ、軽々しくそんなこと言っちゃ……」

「軽々しくなんかありません」市ヶ谷くんの腕に、ぐっと力がこもる。「ずっとそう思ってました」

甘い言葉が、私の心を解きほぐす。

恐怖は拭いきれない。
けれど、もしも彼の優しさに甘えることができたならば、楽になれるのだろうか。
彼の元に逃げ込むのは、ずるいのかな?


そんな打算が頭をよぎったとき。

再び、会議室の扉の開く音がした。



「……!」

声にならない驚きとともに、慌てて顔を上げた私と市ヶ谷くん。
そこに立っていたのは。

「……氷川さん……」


淡々とした、けれど鋭い瞳で。
そこに氷川は立ち、抱き合う私たちの様子を、黙って見つめていた。
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