イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「朱石先輩!?」

会議室に飛び込んできた市ヶ谷くんが、床にしゃがみ込んでいた私の元へ走り寄ってきた。
つい顔を上げてしまった私の、涙でぐしゃぐしゃになった顔を見て、市ヶ谷くんは目を見開く。

「大丈夫ですか!? 何があったんです!?」

私の身体を助け起こし、背中をそっと支える。

「氷川さんは戻ってきたのに、朱石先輩がいつまで経っても戻ってこないから、心配になって見に来たんです。
もしかして、氷川さんに、何かされたんですか!?」

ああ、どうやらひとりだけ居たみたいだ。私のことを心配してくれる人が。
でも、市ヶ谷くん、私には心配してもらう価値なんてないんだよ。
今までのように、偉そうに君の指導をすることもできない。

「心配かけてごめん。でも大丈夫だから。放っておいて」

せめて市ヶ谷くんの視線から逃れたくて、後ろを向いた。
今、自信なく丸まった私の背中は、世界で一番情けないだろう。
もうこれ以上、見ないで欲しい。輝かしい未来を背負ったあなたに、私の姿なんて目にして欲しくない。
頼むから、今すぐここから出ていってくれ。

けれど。
その願いとは裏腹に、後ろから伸びてきた二本の長い腕が、私を包み込んだ。

「放っておけるわけ、ないじゃないですか」

彼の囁きが、耳元で聞こえた。

「俺じゃあ、甘えられませんか?」

背中から力強く抱きすくめられ、高めの彼の体温が、じんわりと全身に伝わってくる。


「好きです。朱石先輩。俺に守らせてください」
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