イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「二十周年のアニバーサリーイヤーに相応しい特別派手なCMを、というのがクライアントの要望です。
衣装、装飾品、セットや小道具など、全て上質なものを揃え、『本物』ならではのクオリティで勝負しようかと。
それに伴い、WEBによる広告戦略を――」


私の立つ壇上を囲むようにコの字型に配置された会議卓。等感覚に座る十数名の社員。
立場は様々だ。今年入社した新人から、絶対的な権力を持つ部長まで。
このプロジェクトに携わるであろう人材が、部内からピックアップされ、この場に集められた。

壇上のすぐ右脇に座っているのが、この会議室内で断トツの権力を誇る男――小野田部長だ。
彼は白髪交じりの頭をひと撫でし腕を組んだあと、僅かに頷いた。
私は心の中でガッツポーズを取る。
部長の癖なのだ。脈ありのときは頷き、NGであれば首を傾げる。

「――以上です」

私は壇上で一礼し、少し下がった位置にある自席へと着席した。
隣に座っていた後輩――私のサポート役である市ヶ谷くんが、小さく拳を握って「ばっちりでした」の合図を送る。


議事進行役が私の代わりにマイクを取った。
「朱石さん、ありがとうございました」
私への労いと共に場を締めくくる。

「それでは次に――」
進行役が視線を向けたのは、私の正面に座っている一人の男性社員。

「――氷川(ひかわ)さん、お願いします」

すらっと背の高い男が、静かに席を立った。
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