イジワル御曹司のギャップに参ってます!
濃いグレーのスーツに濃紺のネクタイ。真っ白なシャツ。
切れ長の瞳に、形の良い唇。整った顔立ちではあるが、冷徹そうにも見える。
寒色の似合う冷え冷えとした印象の男だ。
シルバーのメタルフレームの眼鏡が、知性と神経質さを醸し出している。

会議室内にいる女性社員の視線が釘付けられているのを感じた。
高学歴、高ビジュアル、出世保証付きの彼を独身女性たちが放って置くわけがない。
私は大っ嫌いだけれど。

男が壇上に上がり、プロジェクターに映された資料の説明を始める。
よく通る低い声。
沈着冷静。淀みのない語り口。一切の感情を排除した、徹底的に合理化された論述。
悔しいけれど、いつも通り、この男は完璧だ。
まるで機械のように揺るがない。

「一流の女優、監督を使いキャスティングで話題を攫う、それこそが最大の広告戦略となるでしょう。
そこに経費をかける分、セットを使わず全てCG化し、コストを削減します」

男の冷ややかな目が、一瞬こちらを見たような気がした。

「『上品質』にこだわるのはかまいませんが、求める品質に見合うものを探せるとは限りませんし、不要なコストやリスクを増長するだけでしょう。
そもそも不特定多数の視聴者が一様に芸術性を見い出せるとは考えにくいですし。
対してCGであれば、専門の業者に発注するため、安定したクオリティを見込めます。
弊社の手間も最小限で済み、リスク回避にも繋がります」


――私と正反対の主張を展開する氷川。
その敵意丸出しの攻めっぷりは間違いなく。
私の企画に対して、喧嘩を売っているのだ。
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