徒然なるままに
君のぬくもり

「なぁ、なんにもない部屋だけど、いい?」
「え?」
美月はさっぱり意味がわからないという様子で小首を傾げる。
「だから、俺の部屋。なんにもないけど、よかったら来ないかって。」
いつしか本気に変わっていたその気持ちを、どう表わせばいいのかわからないままでいたけど、苦しい思い出と居心地の悪さを兼ねた家に一人静かに足を進ませる美月を想像するよりは、自分の部屋に誘うほうが俺の気が休まった。
本当にいいの?と確かめるように少し不安そうにした顔に強く頷くと、じゃあ行こっかなって、俺の手を握ったままスキップを始める美月。
家に着いてきちんと靴を揃えたかと思うと、狭い部屋でキョロキョロしながら、本当になにもないんだねなんておどける美月。
はっと気がついた時には、俺は美月を抱きしめていた。
しばらく抵抗しようと小さく圧をかけた美月を、俺は離さなかった。
愛してるだなんて言葉は、まだまだ幼稚な俺には使えない。
いっぱい傷着いてきた美月に、まして簡単に口にはできない。
ただ、たまらなく愛おしくて仕方なかった。
死んじゃおうかななんて、もう冗談でも言わせたくなかった。
「今日が、最後なんだ。」
「なにが?」
「美月と付き合う罰ゲーム。」
そっかと、なぜか安心したように空気のように美月はつぶやく。
「いやだって、言わないのか?」
「言わないよ。言う訳ないじゃない。私に縛られる必要は航太にはないもん。」
その返事にがっかりしつつ、俺は予想ができていたような気もする。
それからずっと、ひたすらに美月の細くて長い髪を撫で続けた。
「航太?」
「美月は、誰といたい?誰といたら幸せ?」
待てど答えを紡がない美月に俺はとうとう言った。
「俺は、美月といたい。今、美月といたいんだ。」
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