『ココロ彩る恋』を貴方と……
「紫音ちゃんは本当に可愛がられて育ったのね〜〜」


所長の奥さんも先輩家政婦さんも同じことを言った。
私自身もそれについては一切否定をしたことがない。


「はい。本当にそうなんです〜〜」


にっこり笑って言葉を受け流してきた。
その頃はそう言われるのが嫌で堪らなかったけど、事実は変わらないんだから仕方ない。



「……あの頃からすれば家事能力も身についたように思うけど、今も変わらず料理だけは下手くそなんだよね」


この家がIHヒーターで良かったと思いながらコンロを磨く。
煮たり焼いたりしただけなのに、どうしてこんなにも食材が飛び散ってしまうんだろうか。


「苦手にも程があると言うか、やっぱりこれはいろんな意味で問題あり過ぎる」


キュッキュッと食器や調理器具を洗いながら思う。

私の手は言いたくないが、かなりの不器用なのかもしれない。

包丁捌きも下手くそなままだし、菜箸なるものは使えば使うほど食材がふっ飛ぶ。

あの意味不明な箸同士を結ぶ紐さえ無ければもう少し何とかなると思うのに、そこはやはり人の所有物だけに切ることもいかず。

ただでさえ不器用な指先に加え扱い難い料理道具を使っての調理の後は、片付けに余計な時間がかかることにもなり、さっきの件も重なった今、気分は結構イラついていた。


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