『ココロ彩る恋』を貴方と……
「生意気なことを…たかが家政婦のくせに!」


その家政婦に散々愚痴を聞かせていたのは誰だ。
家族に置いてけぼりにされたからと言って、当たり散らすのもいい加減にして欲しい。


「私に当たったからと言って、ご家族は戻ってきたりしませんよっ!」


何もかも貴女が悪い。
その嫌味な性格で、チクチクと皆の心を刺したからだ。


「…あんたなんか首だ!とっとと出てお行き!」


痛みの走る腰を庇うように上半身を揺り起こした人が叫んだ。
その言葉に逆上して、足を振り上げてしまった。



「ひぃぃっ!」


悲鳴に驚いて我に返った。

振り上げていた足を下ろし、真っ白になった頭のまま玄関へと走りだした。




「警察……警察……!」


背中の方で呟いている声を耳にした。


私は自分のやってしまった事の重大さを感じながら、外へと飛び出していった。



外気に触れた途端、空から白い粒のようなものが舞い落ちてきた。

反射的に見上げると、どんよりと立ち込める雲の隙間から清らかな雪の粒が落ちてくる。

その粒を顔に受けながら、あの日のことを思い出していたーーー。





ーー祖父が亡くなったのは、細かい雪降りの日だった。

私のことを肯定し、悪くないと言い続けてくれた祖父。


『紫音はいい子だよ。……決して悪い子なんかじゃない』


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