『ココロ彩る恋』を貴方と……
「だから、もう何処にも行かないでくれ。あの家に…戻ってきて欲しい……」


ぎゅっと抱かれた腕の力を信じられなくて顔を上げる。
青っぽい瞳の奥に、確かに自分が映っている。


「私……兵藤さんの目に映っているの……?」


例え彼に好きな人がいても、私の目には彼しか映らないと宣言した。
あの時の気持ちに嘘はないけど、今、彼の目に映っているのは本当に私……?


「……君しか映ってないよ……満仲紫音さん」


名前を呼ばれて擦り寄られた。
頬に落とされたキスが、本当だと物語っている。


「兵藤さん……」


照れたような笑みを浮かべている人が、私の耳元で囁いた。



「紫音…」


甘い声に胸が震える。
兵藤さんの声が優しくて、薄っすらと目眩すら覚えてしまいそうだけど……



(私……)


この腕の中で呼吸をしてもいいんだろうか。

彼の姿を、目で追いかけてもいいんだろうか。


(お爺ちゃん……私、幸せになってもいいの……?)


罪になるような気がして怖かった。
祖父との生活も幸せだった分、壮絶な最後が恐ろしかった。


祖父は敗血症で他界した。足にできた血栓が弾けて、急に心臓への血液が流れなくなった。

あっという間の出来事だった。

お別れの言葉も言えなかったし、遺言のように、いつもの言葉を聞いただけ……。



『紫音はいい子だよ……』


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