『ココロ彩る恋』を貴方と……
「その方が素敵なのになぁ……」


家を出て行く後ろ姿を思い出しつつ、胸がきゅうっと苦しくなる。
私が居てもいなくてもいい様な雰囲気で、声も掛けずに行ってしまった。


「人間に興味がないみたい」


私に…と言うと虚しくなるから、わざと「人間」って言葉を使ってみる。


「見送ってるのに何も言われないってツライよね……」


そりゃね、ただの家政婦だけど。


「頭の中でいつも何を考えてるんだろう」


自分は気がつくと兵藤さんのことばかりを思っている。
好きとかそんな感情じゃなく、不思議な存在感を放つ人って意味合いで。


「ブチブチ言ってないで真面目に仕事するか」


家政婦の仕事は手を動かしながら考え事ができるのがいい。
特にこの家は主があんな感じの人だから見張られてる感がまるでない。

一通りの埃を落としてから掃除機をかけた。それから固く絞った雑巾で窓を拭いたり畳や桟を拭き上げる。


「ふぅ〜〜、スッキリ!」


掃除をした後は癒される。
空気も部屋も新しくなった様な感じがする。


「今度はこの障子も張り替えさせてもらおう」


高校時代まで住んでいた家のことを思い浮かべていた。
いろんな色の和紙が貼られた障子戸は私の一番のお気に入りだった。


「…でも、障子の和紙も単色でないとダメとか言いそう……」


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