『ココロ彩る恋』を貴方と……
革命児で変人っぽい兵藤さんならあり得そうだと思う。
張り替える前に何色の紙を貼ったらいいかを聞いておいた方が賢明だろう。


「後は何処を掃除しておこうか」


離れは仕事部屋だから本人のいない時は入らない方がいいと思うし、そうなると残る部屋は応接室とゲストルームと寝室だけになるんだけど。


「う〜〜ん、寝室か〜〜」


そこも空気の入れ替えがしてなさそうだな…と思った。
部屋に入った途端、男性特有の臭いが充満していたら嫌だなぁ…って気がする。


「今度マスク持ってきた時にしよう。今日のところはゲストルームを掃除するだけにしておこう」


プロが聞いて呆れるようなセリフを吐いて、ゲストルームとプレートの貼られたドアを開けた。
中にはベージュピンクのカバーが掛けられたベッドが二つ置いてあって、どちらも乱れた様子が一つもない。


「……この家って、誰も泊まりにきたりしないの?」


そう言えば、勤め始めてからまだ誰も訪ねて来るのを見ない。
恋人はおろか仕事の関係者まで、誰一人としてこの家のチャイムを鳴らす者はいない。


「そう考えると寂しい家だな〜〜」


ボンヤリと庭を眺めている兵藤さんを思い出した。
あの人がこのまま年をとったら、必ず認知症にでもなりそうな気がする。


「私が刺激でも与えてやろうかしら」


くくく…と笑いを噛みしめながら掃除を始める。

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