ラティアの月光宝花
「お前がカリムの吹き矢で気絶している間に、王がカリムの求婚を断ったんだ。ラティアの民の前でスッパリとな。実に見物だったがヤツがこのまま大人しく引き下がるわけがない。なんといってもイシード帝国の最高指導者の地位にのし上がった男が、自尊心を切って捨てられたんだ。ようやく肩を並べた隣国の王にな」

「……そうだな」

物憂げなオリビエの声の後、一旦皆が押し黙ったのを見計らい、アンリオンはあの出来事に話を移そうと身を乗り出した。

「それからオリビエ。どうしてお前が今、生きているか分かるか」

マルケルスが厳しい顔のまま、アンリオンに口を開く。

「なんだ、早く言え」

アンリオンは少し頷くと両目を僅かに細めてあの時の光景を思い返した。

「カリムの吹き矢を食らったお前を、ヤツのトドメから救った人物がいる」

……近衛兵じゃないのか?

オリビエが真正面からアンリオンを見つめ、口を開こうとした。

それをマルケルスが制する。

「待て……外が騒がしい」

マルケルスは眉を寄せると顔を傾けて耳を澄ました。

まさにその時であった。

「敵だーっ!敵の襲来だーっ!」

ドゥレイヴ家の屋敷の直ぐ外で、悲鳴のような声が響き渡った。

「オリビエ殿!申し上げます!イシード帝国並びにサージア帝国が我がラティアに兵を挙げました!」

咄嗟に立ち上がった三人の前に、血と泥にまみれた伝令係が転がり込むように膝をつくと一気に捲し立てた。
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