ラティアの月光宝花
カリムの要求を飲めば、ラティアはイシードに吸収される。

だが、飲まなければ父であるレイゲン・ドゥレイヴが殺されてしまう。

それにこの先もイシード帝国は攻撃し続けてくるだろう。

「オリビエ、早くレイゲン殿を助けないと……お命が危ないぞ」

マルケルスが低い声で囁くように言うと、セシーリアがコクンと喉を鳴らした。

「……今はカリムの要求どうりにしましょう。レイゲンの命には替えられないわ」

現在のラティア帝国は、軍師レイゲン・ドゥレイヴの武勲の上に成り立っていると言っても過言ではない。

ここを切り抜けてレイゲンの命を助けられさえしたら、後に打開策が生まれるに違いない。

そう思いつつセシーリアが口を開こうとした瞬間であった。

「……いや。待ってくれ、セシーリア王女……気が変わった」

赤い炎がカリムの精悍な頬を照らし、セシーリアは反射的に眉を寄せた。

……気が、変わった?

セシーリアとオリビエ、それにマルケルスが素早く視線を交わし、カリムを注意深く見つめる。

そんな彼らの視線の前で、カリムは側近に身体を起こされたレイゲンを眼の端に写して続けた。

「いくら結婚宣言を約束したところで、このレイゲン・ドゥレイヴを返した後約束を反故にされる可能性は否めない」

ギクリとするセシーリアにカリムは続けた。

「……それに……よく考えればこの状況だ。口先だけの結婚宣言などラティアの民が信じるわけもなかろう。なら、」

カリムは一旦ここで言葉を切ると、視線をオリビエに移してニヤリと笑った。

「レイゲン・ドゥレイヴは解放しよう。その代わりオリビエ・ドゥレイヴ。お前を人質にする」
< 116 / 196 >

この作品をシェア

pagetop