ラティアの月光宝花
ラティアの女王になれ、と。

信じられない思いで、セシーリアは強く光る黄金の瞳を見つめた。

「マルケルス……」

「軍議塔へ入る前、自分で言った言葉を忘れたのか?!今がその時だ、セシーリア」

セシーリアは胸を突かれて眼を見開いた。

それから、自らが発した言葉の重みにおののく。


『私はラティアの王女よ。いずれこの国を背負って立つ者。なら、今ここで逃げるわけにはいかないわ!』


今がその時。

私がこのラティアの女王になる時。

私が、私が。

でも……。

すぐに返事が出来ず、セシーリアは苦痛に頬を歪めた。

軍議塔に朝日が射し始めていた。


***


……来た。

守護神ディーアは天上界からセシーリアを見下ろした。

それからすぐにセシーリアの含む所を感じとり、小さく息をつくと玉座からゆっくりと立ち上がった。

さあ、行かなければ。

黄金のクレピスで編み上げた軍靴の踵をカツンと鳴らすと、ディーアは溶けるように姿を消した。
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