ラティアの月光宝花
***


この一日前。

混乱に乗じて敵兵の隙を突くと、アイリス・ラティアは身を隠しつつ命からがら神殿へと辿り着いた。

「ラティアの守護神ディーアよ。どうか一生のお願いです。我が願いを叶えて下さい」

……アイリス……。

守護神ディーアは天界からこの状況を見るも、いても立ってもいられずハラハラしていたところだった。

最高神アンシャレクは人間の争いに神々が介入することを固く禁じている。

でなければやがてそれが神々同士の争いに発展しかねないからだ。

掟を破った神は冥界に千年封じられ、実際に罰を受けている。

アンシャレクの決め事は絶対なだけに、ディーアの仕事は人間から一方的に信仰され心の拠り所とされる事だけなのだった。

けれどだからといってディーアは何もしない神ではない。

このラティア帝国を愛しているし、なにより身も心も美しい女王……アイリス・ラティアを気に入っていた。

そんなアイリス・ラティアが、必死になってディーアへすがろうとしているのだ。

叶えてやらなければならない、ラティアの守護神として。

……けれど……もう時間がない。

何故なら、アイリスの命が間もなく尽きようとしているからだ。

人間の命が尽きると必ずイルテス神の使者が舞い降りる。

イルテスとは最高神アンシャレクから人間の魂の収集を任されている神で、命が尽きようとする者を見つけては使者に魂を抜かせて持ち帰らせる。
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