ラティアの月光宝花
「あとはマルケルスに任せるわ。あなたならお父様の残りの側近と上手く話を進められるでしょう」

「…いいのか?」

信じられない思いでマルケルスがセシーリアに問うと、彼女は平然と答えた。

「私が安心して任せられるのはマルケルス以外にいないわ」

「……!」

マルケルスは全身が震える程の興奮を覚えた。

戦略を練り、自国を勝利に導く事こそがマルケルスの夢である。

「信じてるわ、マルケルス」

「任せろ。実はもういくつか策を練ってあるんだ。アンリオン、明日の軍事会議は長くなるぞ」

「臨むところだ」

「じゃあ、みんな明日ね」

…時間が惜しい。早くオリビエを救い出したい。

セシーリアは自室を出ると出入口に控えていた侍従に声をかけ、ひとりで歩き出した。

…サージア帝国……。

サージアは広大な領土を所有しているわりに国益はなく軍も少ない。

しかもラティアは毎年五千万エーゲルという大金をサージアに援助してきたのだ。

これはサージアの国家予算の三分の一に匹敵する額である。

当然我が国とは長年友好関係にあり、誰もがサージアに牙を剥かれるなど想像もしていなかった。

セシーリアの脳裏にシド王子の顔が浮かぶ。

あの気弱そうで忙しなく動く瞳。軽薄そうな薄い唇。

サージアが裏切らなければお父様達が死ぬこともオリビエが連れ去られる事もなかったのよ。

……許せない。許せない!

恩を仇で返すサージアも、他国の不幸を望むルアスも絶対に許さない。

オリビエ……オリビエ。

バラ園でオリビエと口付けた記憶が蘇る。

『もう僕から離れるのは許さない』

オリビエ、オリビエ。

オリビエに会いたい!

その時だった。
< 149 / 196 >

この作品をシェア

pagetop