ラティアの月光宝花
蜜蝋に灯された橙色の炎が、薄暗い地下牢に座るルルド王子の頬を頼りなげに照らしている。

その様子がよりルルド王子の雰囲気に影を落とし、それを見たシーグルは溜め息をついてスティーダを腰に収めた。

「生かしておいても特にならない命だ。分かったら今ここで始末しておいた方が懸命というもの」

「さっきから聞いていれば、あなたは子供のクセにやけに人生を諦めているのね」

マラカイトグリーンの瞳が真っ直ぐにルルドを捉え、ルルドはその潔い輝きに胸を突かれた。

「……生まれ落ちた時から……私に希望などなかった」

「だったら聞いて」

セシーリアは一旦言葉を切ってルルド王子に近付くと、視線を合わせて再び口を開いた。

「この度の内戦は王弟とラティアの利害が一致した結果。綺麗事は言わないわ。ルルド。今死んでもいいと思うなら、明日、このラティアに生まれなさい」

「ラティアに……生まれる?」

ルルドが呟くように言うと、セシーリアは僅かに頷いた。

「そうよ。このラティアに生まれて、皆に愛されて幸せに生きるの。でもそれが嫌なら……私はあなたを追わないわ。この牢の鍵は開けておくからどこにでもお行きなさい。じゃあね」

言うなりセシーリアは踵を返した。

ヨルマがしなやかに身を翻すとセシーリアに続く。
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