ラティアの月光宝花
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イシード帝国から返された亡骸がオリビエだと断定されたその夜、セシーリアは火葬の指示を出した。

祭壇へと視線を移すと、セシーリアはそこに置かれたオリビエの骨壷を見つめる。

骨壷を飾る黄金に打ち出された月桂樹は、今にも風に揺れそうな程見事な出来映えであったが、セシーリアはそれを見て少し残念に思った。

「どうした?」

骨壷を指でなぞるセシーリアに近寄ると、シーグルが心配そうにその眼を窺う。

「月桂樹じゃなくてダビディアの葉の方が良かったかも。だってオリビエはダビディアの樹が好きだったもの」

「ドゥレイヴ家の家紋には月桂樹が使われてる。兄さんも月桂樹でいいと思ってるさ」

「……うん……そうかもね……」

「納骨するまでの間、あとしばらく兄さんといてやってくれ。俺はアンリオンの様子を見てくる」

「……分かった。アンリオンをよろしくね」

アンリオンはひどく憔悴している。

彼は別の任務にあたっていたため、イシード帝国にオリビエの亡骸を返された時も、遺体の本人確認にも立ち会えなかったのだ。

しかも任務を終えて帰還し、ようやく再会出来た時には火葬を終え、オリビエは骨となってしまっていた。

逞しい身体を震わせ、ワアワアと泣いたアンリオンが胸に蘇り、セシーリアは唇を噛んだ。

私は沢山泣いた、アンリオンよりも。

……だからもう泣かない。今度流す涙は喜びの涙と決めたもの。

「オリビエ。必ず仇を討つからね。見ていてね」

最後に骨壷に唇を寄せると、セシーリアは踵を返して胸を張り颯爽と歩いた。

弱々しい背中を、オリビエに見せたくなかったのだ。
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