ラティアの月光宝花
シーグルのすぐ前で、勝ち気なマラカイトグリーンの瞳が光った。

「だから、エルフの街へ!」

エルフとは、ラティア帝国の王都である。

シーグルは、キョトンとしてセシーリアを見つめた。

そんなシーグルにセシーリアがニヤリと笑った。

「あのね、シーグル。『お忍び』って言葉を知ってる?」

「お忍び……あ、うん」

セシーリアは薔薇を手早く麻布にくるんだ後、それをシーグルに押し付けると両手を上げて髪を束ねた。

「この言葉はね、午後からの私達の為にあるのよ。オリビエ達には内緒だからね!」

セシーリア……。

シーグルは『お忍び』よりもセシーリアの瞳に浮かんだ『大胆不敵』な光を見つけ、夢中でそんな彼女を見上げた。

*****

城には常に荷馬車が出入りしている。

荷馬車用の出入り口は、三ヶ所ある跳ね橋のうち一番北側のそれである。

セシーリアはシーグルを見つめると、小さな声で言った。

「いい?北の跳ね橋の手前にある、御者の休憩所があるでしょ?あそこの番兵に見つからないようにするのがコツなの」

「そんなの無理だ」

「それがそうでもないのよね」

セシーリアは得意気に少し顎をあげると、グッと瞳に力を込めた。

「跳ね橋が降りる時間は決まってる。荷馬車はそれを見計らって橋の前の待機場に集まるわ。荷馬車に付けられた番号順にね」

「うん、うん」

シーグルは真剣な面持ちでセシーリアに頷いた。
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