ラティアの月光宝花
「店屋を見て回ったり、屋台でララの腸詰めだって食べたいのに」

ララとは仔羊と仔牛、仔豚の肉を同量ずつ細かくし、香草と合わせて練り、蒸したものである。

「……わかるわ。わたしも街は大好きよ」

城へと続く大通りにはいつも様々な店が軒を連ね、珍しい食べ物であろうが装飾品であろうが、手に入らない物はないと言って過言ではない。

……街か……。

ここ三ヶ月の間、セシーリアは城下に下りていなかった。

セシーリアが城下に下りる時はいつも仰々しい列が出来上がるため、見物人が更に倍増する。

ラティア帝国の王女という立場上、セシーリアは三頭立ての馬車から降りる事を許されず、 店に近寄ることも商品を手にとって見ることも出来ない。

それなのに、馬車の中では乳母であるアメリアをはじめ、警護の為の近衛兵までもが乗り込み、息が詰まりそうになる。

何一つ自由に楽しめないのなら城下になど行く価値もないと思い、父王であるラティア王にそう申し出ると、セシーリアは優しく諭された。

『セシーリア。お前が城下へと足を運ぶのは、お前自身の為ではないのだよ。このラティアの民の為なのだ』

最初は意味が分からなかったが、沿道をはじめ、建物の窓という窓、屋上という屋上から人々が顔をだし、一目セシーリアを見ようと集まる姿を見て、セシーリアは眼を見張った。

『美しいセシーリア様!』

『まさしくラティアの薔薇だ!セシーリア姫!』

知りもしない民から愛され、慕われる喜び。

この時初めてセシーリアは、これも自分のつとめなのだと漸く理解し受け入れたのだった。

「行きましょう、シーグル!」

「……え?」
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