ラティアの月光宝花
二人が薔薇園から出ようとした時、突然シーグルが現れた。

バラと蝋燭をふんだんに使って飾り立てられているオベリスクの脇に立つシーグルは、神話の神のように雄々しく、セシーリアは後ろめたさで身体が震えた。

「……シーグル、あの」

「何故?」

「シーグル」

オリビエが諭すようにシーグルを呼んだ。

けれどシーグルは、まるでその声が聞こえていないようにセシーリアだけを見つめていた。

「俺じゃダメなの、セシーリア」

「シーグル、あのね」

「俺が子供だから?!」

「そうじゃないの、シーグル」

涼しげな眼差しでシーグルを見つめたオリビエが、落ち着いた口調でセシーリアの後に続いた。

「シーグル。父上からセシーリアの護衛を任されているのは僕だ」

微かに吹いた風に薔薇の香りが乗り、シーグルだけがその甘い風に顔を歪ませた。

「俺はセシーリアが好きだ」

オリビエよりも少しだけ濃い、シーグルの榛色の瞳が切な気に揺れた。

その綺麗な瞳にセシーリアの胸がキュッと軋む。

「……私も……シーグルが好きよ」

「その好きじゃない。種類が違う」
< 49 / 196 >

この作品をシェア

pagetop