ラティアの月光宝花
胸に拳を突き当てられたような衝撃に、セシーリアの言葉が詰まった。

「シーグル……」

「いいさ、今は」

シーグルが浅く笑った。

「……兄さん」

シーグルに呼ばれ、オリビエが僅かに顎を上げた。

「今はまだ、セシーリアを兄さんに預けておく。でも」

シーグルは一旦ここで言葉を切った後、再びゆっくりとした口調で囁くように告げた。

「いずれセシーリアは俺が守る。兄さんよりも強くなって」

……シーグル……!

目を見開いたオリビエを一瞥すると、シーグルは踵を返し身を翻した。

「その日まで……さよなら、セシーリア」

「……シーグル、待っ」

「セシーリア」

思わず後を追いそうになるセシーリアの腕を、オリビエがそっと掴んだ。

大人への道を急ごうとするシーグルの背中を、セシーリアは黙って見つめるしかなかった。

痛む胸を押さえて。
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