高橋くん攻略法



 パタパタと二人ぶんの不揃いな足音が廊下に響く。
 昨日あんなことがあったとはいえ、まさか高橋くんの方から声をかけてくるとは思いもしなかった。
 たまにクラスの人と話しているのを見かけたりはするけれど、高橋くんがこうして自ら声をかけるなんてかなり珍しいんじゃないだろうか。失礼かもしれないけど、少なくとも友達は多くないんだろうと思ってたし。


「梶さん」
「は、はいっ」


 不意に声をかけられ、咄嗟(とっさ)に敬語で対応してしまった。
 高橋くんが声をかけてきた理由なんてそりゃ、昨日のこと以外思いつかない。でも昨日は何だかんだ逃げられちゃったし、てっきりそれまでの関係なんだと思い込んでいたんだけど。


「その……色々と話したいことはあるんだけど、ごちゃごちゃしてうまくまとまらないから、とりあえず聞きたいこと聞いていい?」
「う、うん」
「本当に僕なんかが変われるって、思ってる?」
「え?」


 これまた予想だにしない質問が返ってきた。追い付かない思考回路にぐるぐると高橋くんの言葉が巡っていく。


「だ、だってほら、僕なんて友達もいないしましてや彼女もいないし勉強だってそこそこだし、おまけに口下手でどんくさくてクラスの中心にいるような人達とは程遠くて……」
「す、ストップストップ!そんな自分の悪口まくし立てて言わなくても……」
「だから!聞いてるんです!」
「………っ」


 高橋くんの凄まじい勢いに珍しくこの私が押されている。


「本当にこんな僕が、変われると思いますか?僕は僕に自信なんてこれっぽっちもないし、梶さんが昨日言ってくれたようにポジティブな人間なんかにはなれないから……」
「高橋くん……」
「そ、それでも、梶さんがそう言ってくれるなら、僕………っ」
「大丈夫だよ、高橋くん」


 その言葉に高橋くんは足を止めて、驚いたような顔で私を振り返った。

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