眠りの森のシンデレラ
「清たち、もうちょっとしてから来るって。それにしてもさぁ、桃花ちゃんから聞いていたけど、薫、凄いね!」
裕樹は食卓の料理に嬉々とはしゃぐ。
「で、どうして貴方までここにいるのかしら?」
「エッ、人をこき使っておいて、いまさら? まっ、いいけど。それはね」
重大発表のようにドラムロールを口ずさみ、「僕は薫のお節料理に会いに来たの」と頬にエクボを浮かべ、最上級の笑みを浮かべる。
「あら、そう」と薫は軽くスルーし、思惑気にフフーンと鼻を鳴らすと、至極丁寧にお辞儀をする。
「改めまして、水佐和様。昨年からのお約束、元旦の本日、承諾させて頂きます。お宅との提携、承知致します」
ヘッ? と祐樹が固まる。
そして、その場の全員が、薫の発表の方がドラムロールが必要では? と心で突っ込む。
薫は、皆の様子に満足し、してやったり、とニヤリ笑む。
「本当に、本当?」
上ずった祐樹の確認に、「ええ」と薫が満面の笑みで答える。
「ウワァァァ、チェックメイト! これで今年もレストランMは安泰だ」
「ちょっと落ち着いて! 桃花がビックリしているじゃない」
登麻里は子供のように飛び跳ね喜ぶ裕樹をたしなめる。
「ごめんごめん」と言いながらも浮かれ調子は収まらない。
「薫、サンキュー。一緒に癒しの味を追求しよう!」
「……ハァ、癒しの味?」
薫は、それは何? と首を傾げる。
「エッ、言ってなかった? レストランMの次なるステージは『癒しの味』をテーマにしたスイーツ作りなんだ。『今ある』の主人公がスイーツで癒されたように、傷付いた人たちの助けが少しでもできれば、って思って」
話を聞いていた薫の目尻がドンドン吊り上がっていく。
そして、とうとう、「バカァァァ!」と怒鳴るなり、バンとテーブルを両手で突くと、前のめりに立ち上がる。
ヒョエ、とつられて飛び上がる裕樹に向かって、怒気を含む声で薫が言う。
「どうして、そんな大事なこと、先に言わないの!」
「エッ、だって、企業秘密をペラペラ喋れないでしょう」
裕樹は薫の怒りに気圧され、慌てて言い訳をする。
「全く! 先にそう言ってくれれば、はなから協力してあげたわよ。ったく! そんな奇特な奴だと思っていなかったわ。もう、何てイイ奴なの、あんたって」
薫は右手を差し出し、思い切り口角を上げる。
「これからどうぞよろしく。水佐和社長」
「嬉しいな。うん。こちらこそよろしく、薫」