甘い恋じゃなかった。
「桐原さん!良かったです、間に合って」
そう言いながら、私は桐原さんの服装を素早くチェックする。
ファッションセンスが壊滅的な桐原さん。
「普通の服で着てくださいね?」と今日家を出る際、さりげな〜くお願いしてみたのだが(はぁ?と心底不可解そうな顔をされたのは言うまでもない)その結果は…。
一見、黒いシンプルなTシャツにダメージジーンズというとても“普通”の格好。でも、よく見ると胸の所に白い字で“愛”とプリントされている。
うわぁ惜しい!!!
チラ、と隣の莉央に目を遣る。莉央は顔だけでなくファッションにも厳しい女なのだ。
さぞや不評だろう、と思って見ると、莉央はポカン、とその形の良い口をだらし無く開き、ただでさえ大きな瞳を見開いて、立ち尽くしていた。
「…莉央?」
名前を呼ぶと、弾かれたように我に返った莉央が、
「ちょっと来て!!」
私の腕をむんずと掴んで少し離れた所まで引っ張った。痛い。
「騙したね?」
私を離し、腕を組んだ莉央が私を睨みつける。
「どこがカバ男?ただの、超絶イケメンじゃないの!!!」
莉央の瞳の奥に“三度の飯よりイケメンが好き”という言葉が見えた気がした。