甘い恋じゃなかった。
牛奥が目覚めたのはそれから数十分後のことだった。
うっすら目を開けた牛奥が、傍らで見守る私に気付いて、「…桐原さんは…?」と聞く。
「もう仕事行ったよ」
「そっか…ということはやっぱり夢じゃなかったんだな…」
うなだれる牛奥。
「あの…桐原さんがなんか思わせぶりなこと言ってたけど、あれ嘘だから!付き合ってないから!」
「……じゃぁ何で同棲してるんだよ」
「だ、だから同棲じゃないって!」
だって同棲っていうのはあくまで、結婚前の恋人同士がするイメージがある。
「まぁ一緒に住んでは、いるけど」
「意味わかんねーよ…」
目を手で覆った牛奥が、深いため息をつく。
「ち、違うの。これには色々と深いワケがあって」
「ふーん…一緒に住まなきゃいけない深いワケ?
…聞かせて」
というわけで。
私は真剣すぎる牛奥の瞳に囚われ、洗いざらい全てを話すことになってしまった。だって牛奥があまりにも真剣だから、とても適当な嘘が言える雰囲気ではなかった。