甘い恋じゃなかった。


「…顔赤くしてんじゃねーよ…」


どんよりとした紫色のオーラを放ち始める牛奥。


「や、違うこれは。…はじめて誰かに、このこと言ったから」


まだ莉央にも言っていなかった。


「…桐原さんには?」

「…言ってない」

「そっか」


つーか座れよ、いい加減。と牛奥が座席を顎で示す。

お言葉に甘えて椅子に腰をおろすと、牛奥がドン、と私の前にビールジョッキを置いた。


「今日はとことん付き合えよな!俺のヤケ酒に!!」


そして私の返答を待たず、グビグビと喉にビールを流し込む。うお、いい飲みっぷりだ。私の頭にあのゲロの記憶が蘇る…。


「…牛奥」

「わーってるよ!ほどほどにするよ、ほどほどにな」


言ったそばから、牛奥は店員のオネーサンをつかまえてビール追加の注文をしていた。



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