甘い恋じゃなかった。
「……は…」
得意気にカボチャプリンの説明をし始めた桐原さんの口が、止まる。
「おまえ、何…」
離れようとする桐原さんの背中に回した腕に、ギュ、と力をこめた。
「勝手に離れないで下さい。ケーキ二個以上お買い上げのお客様にはハグが一回ついてくるんでしょう。ね、店長?」
「そ、その通りだよっ!」
ちょうどケーキを補充にきた店長が、グ、と親指を立てたのが気配で分かった。
はぁ、と頭上で桐原さんが観念したようなため息をつく。
「…別にしなくちゃいけない義務ではないんだけど」
「…義務感でなんてしてません」
だからこの男は。
勝手に人の気持ちを決め付けないで欲しい。
「私がしたいからしてるんですけど」
は、と桐原さんが息をのんだのが分かった。
…今桐原さんは、一体どんな顔をしているんだろう。少しは動揺、してくれたんだろうか。
見てみたい、と思った。
いつも仏頂面で偉そうなこの男の、不意をつかれた顔が見たいと思った。
もし私が、好きだと言ったら。
“ビビんなよ、小鳥遊”
「好きです。桐原さん」